無停電電源装置(UPS) #1 電源障害の種類

無停電電源装置(UPS)の導入を検討しており、UPSの効果と種類について調べてみました。

無停電電源装置(UPS)

無停電電源装置は、英語ではUPS (Uninterruptible Power Supply) と表記します。日本語での表記は文字数が多く長いのでUPSと略すことが多いです。

UPS(無停電電源装置)とは、停電などによって電力供給が断たれた場合にも連続して電力を供給し続ける電源装置です。商用電源(コンセントなど)と電力遮断から保護したい装置(コンピューターなど)の間に設置します。

UPSの接続形態

バッテリーを内蔵するノートPCなどであれば、UPS相当の機能がPC本体に取り込まれている形となるため、UPSは必要ありません。UPSが必要になるのは、バッテリーを内蔵していないデバイス(デスクトップPCやネットワーク機器など)になります。

UPSの本来の定義では、UPSの出力は交流・直流を問いません。しかし、日本で家庭用・事務用のUPSというと、日本の商用交流電源(101±6 V, 50 or 60Hz)を出力するものをさすことが多いようです。本投稿でも、UPSと記載したときは、日本の家庭用・事務用の商用交流電源を出力するものをさすことにします。

なぜUPSが必要になるかを理解するために、まずは電力供給のトラブルである「電源障害」について考えます。

電源障害

コンピューターなどの装置に悪影響を与える電源障害は、完全に電力がなくなる停電以外にもさまざまな障害があります。

下記に示すような障害発生することによって突然のトラブルが装置に引き起こされます。

給電が停止するトラブル

  • 停電
  • 瞬時停電
  • 瞬時電圧低下

給電が停止するトラブルで、わかりやすいのは供給されている電気が停止してしまうこと(0Vになること)です。電気が停止するときの継続時間は数秒のこともあれば、数時間に及ぶこともあります。日本では、電気の供給が停止の継続時間が、1分間以上を「停電」、1分以下を「瞬時停電、短時間停電」と定義されます。これらに関連して発生する給電トラブルが「瞬時電圧低下」となります。

「停電」、「瞬時停電」、「瞬時電圧低下」の原因の多くは、送電線や鉄塔への落雷です。その他の原因としては、電力供給系統機器の故障や送配電線の断線、樹木の配電線への接触、高圧電力需要家の電力系統機器の故障などがあります。

送電線や鉄塔への落雷が引き金の場合は、多くは数秒でその引き金が消滅します。落雷は一瞬の自然現象であり、すぐに終わるからです。この場合、遮断機の開放後、再閉路(投入)することにより自動的に停電の原因を取り除くことができます。その他の原因(電力系統機器の故障、送電線の断線、樹木の配電線への接触など)の場合は、原因を自動的には取り除くことができないため、継続時間は長くなる傾向です。

瞬時電圧低下(電圧ディップ):

「瞬時電圧低下」とは、短時間(0.07~2秒程度、多くが0.2秒以下、最大で2秒程度)の電圧低下のことです。送電線が落雷を受け地絡が発生したら、その送電線を自動的に電力系統から切り離し、大規模な停電を防いでいます。このとき、切り離すまでの間に瞬時電圧低下が発生します。その後、切り離しが完了すると、発電所・切り離した送電線・受電場所の位置関係により、停電・瞬時停電となる地域と電圧が回復する地域に分かれます。

この落雷を受けた送電線を電力系統から切り離しにかかる時間が0.07~2秒程度(大半が0.2秒以下)とされています。瞬時電圧低下となる地域では、短い時間ですが、切り離しが完了するまでの間、電圧が低下します。

瞬時電圧低下の影響は、電灯がチカチカするなどの現象として現れます。電灯であれば、ちかちかする程度で済みますが、コンピューターやネットワーク機器の場合は、1秒間に10億回以上の処理をしており、短時間であってもデータ損失など致命的な問題(データの保存前に再起動してしまうなど)が発生することになります。

瞬時停電(短時間停電):

「瞬時停電(瞬停)、短時間停電」とは、短時間(最大で1分程度)の電力供給の停止ことです。送電線が落雷を受けたら、その送電線を自動的に電力系統から切り離し、大規模な停電を防いでいます。このとき、この意図的な切り離しの時間が最大1分間程度です。「停電」とはことなり、意図的な切り離しであるので、「停電」とは区別して、「瞬時停電」としています。このとき、発電所・切り離した送電線・受電場所の位置関係により、停電となる地域、瞬時停電となる地域に分かれます。落雷による停電など地絡が原因の場合は、切り離しがされるまでの間、先行して「瞬時電圧低下」が発生します。

停電

「停電」とは、文字通り、供給されている電気が停止してしまうこと(0Vになること)です。ただし、停止の継続時間が1分以上のものを「停電」と定義されます。

1分間以上の電力供給の停止である「停電」が発生したときは、自動で回復できる原因(落雷など)でないことが多いです。自動で回復できない原因(電力系統機器の故障、送電線の断線、樹木の配電線への接触など)の場合は、原因を人手で取り除く必要があるので、継続時間は長くなる傾向です。

給電が停止するトラブルの電圧波形

「停電」、「瞬時停電」、「瞬時電圧低下」を言葉で説明してきました。次に、落雷による地絡電流による電圧波形の違いを示します。ここでは、説明の為に時間軸方向の領域をA領域、B領域、C領域、D領域と分けています。また、波形を見やすくするために、時間軸方向はかなり圧縮しています。本来は一つの領域で3周期程度の時間ではなく、もっと長い時間となります。

給電が停止するトラブル (B領域は0.07秒間から最大2秒間程度、C領域は最大1分間程度)
A領域

この時間軸の領域は、まだ、給電トラブルがない状態です。A領域とB領域の境目で、鉄塔や送電線に落雷があり、地絡が発生したことを想定します。

B領域

この時間軸の領域では、地絡が発生している状態です。B領域は0.07秒間から最大で2秒間くらいの時間です。地絡電流による電圧降下で、供給電圧が低下していることがわかります。地絡が原因の場合は、最終的に「瞬低」、「瞬停」、「停電」のどれになるにかかわらず、まずは、電圧低下が起きると考えて問題ありません。

B領域とC領域の境目では、問題が発生した送電線等を電力供給系統から切り離したタイミングとなります。

C領域

この時間軸の領域では、意図的に電力供給を停止している期間です。C領域は最大で1分間くらいです。C領域では正常に戻る地域と、電力供給が完全に断たれる地域と別れます。

瞬低地域:切り離された送電線と直接つながっていない地域では、電力供給が正常に戻ります。

瞬停地域・停電地域:切り離された送電線と直接つながっている地域では、電力供給が絶たれます。その後の状態によって、「瞬停」または「停電」に分類されます。

C領域とD領域の境目では、問題がないと判断された送電線は、遮断器が再閉路されます。これにより、問題のない地域は自動再送電されます。

D領域

この時間軸の領域では、正常に戻る地域と、引き続き電力供給が完全に断たれる地域と別れます。

瞬低地域:すでに電力供給が正常に戻っており、引き続き正常です。

瞬停地域:自動再送電された送電線と直接つながっている地域では、電力供給が正常に戻ります。

停電地域:自動再送電されなく、引き続き、切り離された送電線と直接つながっている地域では、電力供給が絶たれたまます。

給電が停止するトラブルの影響

これらの瞬時電圧停止や瞬時電圧低下のトラブルは、継続時間がごく短時間(例えば0.05秒以下)であれば、コンピューターやネットワーク機器の電源回路で吸収され、トラブルが発生することはありません。限度を超えると、シャットダウンしたり、誤動作を引き起こしたりします。

メカニズム

瞬時電圧低下の発生メカニズムについて、「山洋教室 停電の基礎知識と対策」や「北陸電力のホームページの説明」が参考になります。

北陸電力のホームページの説明を以下の節で引用させていただきます。

瞬時電圧低下の発生メカニズム (北陸電力ホームページより)
送電線への落雷による瞬時電圧低下のメカニズム

瞬時電圧低下(瞬低)とは、文字どおり「瞬間的に電圧が低下する」現象であり、そのメカニズムは、送電線への落雷を例にとると上図のとおりです。

  1. 送電線に落雷する。
  2. 雷により瞬間的に高い電圧が発生して送電線と鉄塔間が閃絡(ショート)する。
  3. この部分を通して、故障電流が流れる。
  4. 多大な故障電流が流れることにより、電圧が低下する。
  5. 電圧低下の影響が発生する。
  6. 保護リレーで故障を検出し、遮断器を開く。
  7. 故障を切り離す。

という形で発生し、通常、2から7までの間(0.07~2秒間)継続します。

送電系統への落雷と需要家(お客様)への供給電圧の変化

左図のような送電系統において2号線に落雷による故障が発生した場合、A~Cのすべてのお客さまの受電電圧が低下します。

その後、2号線側の遮断器が開放されて故障区間が切り離されることにより、Bのお客さまは停電となり、AおよびCのお客さまの受電電圧は回復いたします。

瞬低はこのように近くの故障だけではなく、遠方の故障の影響によって発生することがあります。このように、瞬低は故障を切り離すまでに発生する現象であり、残念ながら電力流通設備側の対策では完全に瞬低の発生を防止することはできません。

給電電圧が変動するトラブル

  • 電圧過不足(過電圧状態、電圧不足状態)
  • 瞬時電圧変動(サグ/瞬低、サージ/急な過電圧)
  • 周波数変動

電圧過不足
日本では、商用交流電源は、101V±6Vの範囲で供給しなければならないことが法律(電気事業法第26条)で定められています。そのため、定常的にこの電圧の範囲を超えて電圧の過不足になることはありません。しかしながら、この電圧の範囲内では、近くの電力の使用状況によっては、電圧が平常時より高めになったり、低めになったりすることはあります。電力需要が大きい場合は電圧は下がり気味になります。電力需要が小さい場合は、電圧は上がり気味になります。

瞬時電圧変動
瞬時電圧変動も、近くで使われている電気設備(大電力を使用する設備。多くは電源投入時や電源切断時)によっては、発生しやすくなります。

周波数変動
周波数変動は、電力の需要と供給が一致しないときに発生しやすくなります。電力需要の方が大きい場合は、周波数は下がり気味になります。電力需要の方が小さい場合は、周波数は上がり気味になります。

これらの供給電圧や周波数が変動するトラブルは、変動が少なければ、コンピューターやネットワーク機器の電源回路で吸収され、トラブルが発生することはありません。限度を超えると、シャットダウンしたり、誤動作を引き起こしたりします。

接続機器などの外因によるトラブル

  • 電圧波形ひずみ
  • 高周波ノイズ

日本の家庭用・事務用電気は、50Hzまたは60Hzの正弦波(サイン波)の交流電圧です。その正弦波の波形が乱れることが、電圧波形ひずみ、高周波ノイズとなります。主に基本周波数(50Hz/60Hz)の倍数の周波数の高調波によって引き起こされます。高調波が多く含まれれると、基本周波数の電圧を想定して作られた機器は、発熱・誤動作などが発生します。


今回は、UPS(無停電電源装置)が必要となる理由を知るために、電力供給のトラブルについて確認しました。次回は、UPSの種類の違いについて確認したいと思います。

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