2022年9月にDSMの7.1.1系がリリースされたのですが、困ったことにメディアサーバーに関する機能の一つが削除されてしまいました。
DSM のリリース
Synology DiskStation (NAS)のOSであるDiskStation Manager (以下DSM)は、セキュリティ更新や機能追加の更新が過去の機種も含めて継続的に提供されています。過去に機種としては現在でもDS215+に更新プログラムが提供されているので、7年前の2015年モデルもサポートしていることになります。
たとえば、2020年モデルであるDS1520+向けのDSMは以下のように、おおよそ一ヶ月から二ヵ月間隔で更新プログラムがリリースされています。
DSM 7.0.1系のリリース
- 2021年10月21日 7.0.1-42218
- 2022年01月10日 7.0.1-42218 Update 1 (1月12日に提供停止)
- 2022年01月13日 7.0.1-42218 Update 2
- 2022年03月01日 7.0.1-42218 Update 3
- 2022年05月18日 7.0.1-42218 Update 4
- 2022年06月23日 7.0.1-42218 Update 5
DSM 7.1.0系のリリース
- 2022年04月01日 7.1-42661 (5月4日に差し替え)
- 2022年04月27日 7.1-42661 Update 1
- 2022年06月01日 7.1-42661 Update 2
- 2022年07月21日 7.1-42661 Update 3
- 2022年08月22日 7.1-42661 Update 4
DSM 7.1.1系のリリース
- 2022年09月05日 7.1.1-42962 (9月27日に差し替えられる)
- 2022年09月22日 7.1.1-42962 Update 1
- 2022年10月20日 7.1.1-42962 Update 2
バージョン番号に変更がない Update X という更新は、主にセキュリティ更新とバグ修正です。
バージョン番号が変更になる更新は、機能追加・機能変更などが伴うものとなります。バージョン番号が変更になる更新は、おおよそ半年に一回程度の頻度です。
DSM 7.1.1系のリリース
2022年の前半は、DSMは7.0.1系、及び、7.1.0系でした。2022年9月27日にその新バージョンとして7.1.1系がリリースされました。リリースされたバージョン番号は 7.1.1-42962 となります。
DSM 7.1.1の重要な注意点
リリースノートの「重要な注意点」をSynologyのサイトから以下に抜粋します。
Important Notes
- Your Synology NAS may not notify you of this DSM update because of the following reasons. If you want to update your DSM to this version now, please click here to manually update it. Only Synology NAS with DSM 7.1 installed can be updated to this version.
- The update is not available in your region yet. The update is expected to be available for all regions within the next few days, although the time of release in each region may vary slightly.
- Your DSM is working fine without having to update. The system evaluates service statuses and system settings to determine whether it needs to update to this version.
- This update will restart your Synology NAS.
- Starting from this version, the bad sector count column will not be displayed along with hard drive information. Users should go to each drive’s Health Info > History to view its complete bad sector information. To determine whether bad sectors are affecting the drive, see if there’s a significant increase in the number of bad sectors over time.
- Adjusted how the system calculates the estimated lifespan for M.2 NVMe SSDs to provide a more accurate estimation.
- AAC-encoded content can be decoded and natively played back by most end devices, such as smartphones, tablets, computers, and smart TVs. Server-side transcoding of AAC-encoded content has been a redundant and resource-consuming process that was removed starting from DSM 7.1.1.
- Surveillance Station must be updated to version 9.0.1- 7673 or above to be compatible with this update.
- DSM 7.1.1-42962 was updated on September 27, 2022, to fix the issue where updating to DSM 7.1.1 might fail if users’ Synology NAS weren’t connected to the Internet.
- DS414j users are recommended to keep their current DSM version if they are using or plan to use Synology Photos. The package version compatible with DSM 7.1.1 is currently under development and is scheduled to release in November.
この中で、一点気になった項目がありました。5番の項目です。
AACトランスコード機能が削除された
5. AAC-encoded content can be decoded and natively played back by most end devices, such as smartphones, tablets, computers, and smart TVs. Server-side transcoding of AAC-encoded content has been a redundant and resource-consuming process that was removed starting from DSM 7.1.1.
日本語に訳すと以下の通りです。
5. AAC エンコードされたコンテンツは、スマートフォン、タブレット、コンピュータ、スマート TV など、ほとんどのエンド デバイスでデコードされ、ネイティブに再生することができます。AAC エンコードされたコンテンツのサーバーサイドでのトランスコーディングは、冗長でリソースを消費する処理でしたが、DSM 7.1.1 からは削除されています。
これは、AACコンテンツを直接デコードできないデバイス向けに、NAS側(DiskStation側)でPCMにデコードして配信していた機能が削除されたということになります。
このコンテンツファイルをPCMにデコードして配信する機能は、DSMのメディアサーバーでは、「オーディオ変換」機能と呼んでいます。
Synology NASのメディアサーバーにとってのAACコンテンツとは、ファイルの拡張子がm4aのコンテンツ ファイルとなります。
そこで頭に浮かんだのは、私も利用しているソニーの古いDLNAクライアントであるVGF-WA1とNAS-C5です。
もしかして、これらの機器にaacコンテンツが配信できなくなるのではないかと。これらの機器は、PCM (wav)コンテンツ、MPEG-1 Audio Layer-3 (mp3)コンテンツ、ATRAC (oma)コンテンツはデバイス側でデコード再生できるようですが、AACコンテンツはデバイス側でデコード再生できない可能性があります。
この場合、これらのデバイス向けには、AACコンテンツの配信はあきらめ、MP3コンテンツ、または、7.1.1系でもトランスコード配信(オーディオ変換配信)がサポートされているコーデック(flacなど)を使う必要があります。
実際、アップデートをしてみてどのようになるのか確認してみます。
AACコンテンツのトランスコード配信はできなくなった
「オーディオ変換(トランスコード)」機能の設定は、メディアサーバーの「DMA互換性」の項目にあります。
DSM 7.1.0のメディアサーバーの「オーディオ変換」機能
DSM 7.1.0のメディアサーバーの「オーディオ変換」機能の設定画面は以下の通りです。
「オーディオ変換」機能にAACのチェックボックスがあります。
DSM 7.1.1のメディアサーバーの「オーディオ変換」機能
DSM 7.1.1にアップグレードした後のメディアサーバーの「オーディオ変換」機能の設定画面は以下の通りです。
「オーディオ変換」機能からAACのチェックボックスがなくなりました。
メディアサーバーの仕様変更が、AACのチェックボックスが既定でオフになるだけなら、設定をオンに変更すればよいです。しかし、実際の仕様変更では、AACチェックボックスそのものがなくなっています。そのため、AACのオーディオ変換機能はどのようにしても利用することはできなくなりました。
ソニーの古いDLNAクライアントでの再生
DSM 7.1.1系にアップグレードした後、ソニーの古いDLNAクライアントであるVGF-WA1から、AACコンテンツ(m4aファイル)は再生できなくなりました。AACコンテンツは、VGF-WA1上では、コンテンツ一覧として見えるのですが、AACコンテンツはグレーアウトしており、再生はできません。
既定値をオフにするだけでも、NASの負荷を下げる目的は達成できるので、Synologyさんには、DSM 7.1.1でもAACチェックボックスは残してほしかったです。なぜなら、オーディオ変換機能は、NASの外部にあるデバイスに影響を与える仕様変更です。
しかし、外部デバイスのファームウェアは、Synologyが提供しているわけではありません。外部デバイスの製造元が提供しているものです。Synologyと関係のない外部デバイスの製造元がAACコンテンツのデコード機能を持っていないデバイスに、SynologyのNASの為にAACコンテンツのデコード機能を追加するファームウェアを公開することはありえないからです。
本件についてSynologyのサポートに連絡を取ってみましたが、「AACコンテンツのオーディオ変換機能の削除は、DSM 7.1.1に仕様です。AACコンテンツを再生したい場合は、外部デバイスの製造元に機能を提供してもらってください」との返事でした。Synologyの制御外である、実現不可能な対応方法を案内されても困るんですが、、、、
DSM 7.1.1にアップデートせず、DSM 7.1.0にとどまる選択肢も考えられます・しかし、DSM 7.1.1がリリースされた後は、DSM 7.1.0向けにセキュリティ更新などが提供されるなくなります。セキュリティ更新が提供されないのは致命的なので、DSM 7.1.0にとどまるという選択肢を取ることはできません。
DSM 7.1.1以降を使う場合は、AACコンテンツファイル(m4aファイル)を配信するのはあきらめ、mp3ファイル(mp3ファイルを直接配信)やflacファイル(オーディオ変換機能でPCMで配信)で配信するしかなさそうです。
今回の投稿では、DMS 7.1.1のメディアサーバーで、「オーディオ変換」機能からAACコンテンツの変換機能が削除されたことの説明でした。
詳細な説明、わかりやすく役に立ち、ありがとうございました。私もsynologyのNASを使っていますが、どのITベンダーも勝手に機能を削除することがあって、利用者としては困ったものだと感じました。